囚われの女神

遠い昔、少女が気づいたのは、とても暗く、とても狭く、息も出
来ないくらい噎せ返る血の臭いの中だった。手、足、口、全ての
自由が利かずただ、眼球だけで虚空の暗闇を見つめることしか
出来なかった。

少女が最後に見た光は、人を糧として燃えさかる炎と、自分
を絡め取る幾本もの手。その後は、闇の中で自分の体を何度
も何度も、冷たい塊が貫く感覚だけが思い出せるすべてであ
った。「ワタシハ、……ナニ?」

突如として少女の闇は放たれた。眼前に広がるのは満天の
星空、その星の輝きさえもまぶしかった。だが、体の自由まで
は戻ることがなく少女は自身を見ようと唯一動く目だけを必
死に傾けた。その先にあったのは、手も足もわからず、血に
満ちた肉の塊が鼓動と共に波打っていた。

少女は声のない悲鳴をあげる。それを凝視する黒い影が、少
女の目から星空を隠す。そこには長い牙を持った魔物の顔が
近づいてきていた。少女の肉塊と血が一瞬ざわめいた瞬間、
それは鋭い刃となり魔物の顔を貫いていた。