聖帝の涙

豊穣を約束された土地を巡り幾多の争乱と屍の山を越えてきた。
その地を手にした先王の死を看取った若き王は家臣に命を下す。
「約束の地を焼き払う」静かだが凛と響く声だった。

家臣も民も誰も異を唱える者はいなかった。火は放たれる。
緑の木々が燃える。動物達が逃げ惑う。豊穣の証が灰になる。
先王が死にもの狂いで守った大地は荒れた焼け野原となる。

若き王は燃え上がる炎をいつまでも眺めていた。その後土地は
封鎖され永世中立地となる。やがて年月は過ぎ約束の地は再び
緑の楽園となった。その奥深くに一振りの槍が眠っている。

土地を守ろうとした王が約束の地で手にした剣であり、土地を
焼いた王が槍に打ち直したそれは、今は錆びて見る影もない。
これは生命溢れる約束の地の物語。続きを知る者は誰もいない。

Previous Story “聖帝の棺”