首切り包丁

滴り落ちる肉汁、口の中に広がるハーブの香り。
その料理人が作る肉料理は、シンプルでありな
がら、誰もが唸るほどの美味しさだった。

彼の店には連日行列ができ、贅を知り尽くした
時の公爵ですら彼の料理を味わうためならば、
お忍びで城から抜け出すほどであった。

料理人の笑顔は、ひとたび調理場に入ると真剣
そのものになる。彼が取り出した大きな肉の塊は
どうやら食用のものではなかったのである。

時代が移りすぎ、料理人もその店も、その町も消
え去った今も、彼が使った包丁だけは錆びること
なく次の出番を待ち続けている。