ザンポの斧

小さな農村のはずれの小屋に、一匹のネズミと暮らす男がい
た。男は醜い容姿の持ち主で、その不気味さから、村中で疎
まれていたが、心根のやさしい男だった。時として村の子供から
石を投げられることがあっても、常に笑顔を絶やすことはなか
った。

どうにかして不気味な男を追い出そうとした村人達は、男の
飼っているネズミが穀物を荒らしたと因縁をつけ、男のネズミ
を捕まえ、首を切り落として殺してしまった。

ただ一人の友人を亡くした男は正気を失った。人とも思えぬ
雄叫びをあげながら、手にした斧で、老人から子供まで村人
全員の首を刎ねてまわり、首の山を築き上げた。そして最後
に首を一つ足すように、そこで自らの首を刎ねて絶命した。

首の山から発見された凶器の斧は、村人の血を吸った金属
の部分が真っ赤に染まっていた。後にこの斧の持ち主となる封
印騎士団のザンポは、この斧で獲物を切り裂く瞬間の感触に、
自分の失った味覚の幻影を見ていたのだろうか。