信義

遥か東の国の都に歌を詠むことで生計を立てている歌人がい
た。自分の才能に限界を感じていたある時、質屋に飾られて
いた美しい刀を目にした。赤く輝く刀身に魅入られた歌人は、
刀を購入し持ち帰る。

傍らに刀を置き、うとうとと寝入ると、夢枕に一匹の妖怪が現
れ、歌人に取引を迫った。おまえの名をくれれば、万能の才
を授けよう、と。

歌人は才を得る為に、自らの名を妖怪に与えた。契約どおり、
歌人は優美な肢体と、卓越した才能を一夜にして手に入れた。

才の代わりに名を失った歌人は、次第に人の姿を失っていく。
ついに妖怪と成り果てた歌人は、闇の中へと消えていった。
後に残るは、名を得てさらに輝きを増した刀だけだった。

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