貴正

その男は貴正を合戦の折、敵から奪い取ったのだと伝えられ
ている。貴正をはいていたのは、みすぼらしい落武者であっ
たという。

落武者の剣術は優れたものではなかったが、刀を合わせた途
端、男の刀はたちまち折られてしまった。男は身を捨てる覚悟
で臨み、貴正を肩口に受けながら、折れた刀を落武者の眉間
に突き立てた。こうして男は貴正を手にいれた。

「肉を切らせて骨を断つ」男の覚悟に貴正が呼応したのか、貴
正の切れ味は戦を経るごとに増していった。貴正を手に次々
と武勲を挙げる男。そんなある日、男に鬼退治の勅命が下る。
鬼の力は剛力無双、その肉体は金剛不壊と呼ばれた。

鬼との戦に臨む男。鬼の一撃が男に襲いかかる。だが、男も、
貴正もそれを防ごうとはしない。男は半身の骨を砕かれた。が、
次の瞬間には貴正が鬼の喉笛を貫く、骸となった鬼に男は吐
き捨てた、「骨を断たせて命を断つ」と。男の死後も、貴正に
はその魂が宿るという。

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