知識の杖

その魔術師には語り合える友が一人もいなかった。別に魔術
師が、人間嫌いだったわけではない。少し知識をひけらかす
癖があったが根は悪い人間ではなかった。だが、彼と交流を
持った人達は、次第に彼の元から去っていった…。

ある日、魔術師に原因不明の病が発症する。熱は上がり続け、
動悸も激しく、手足は痛み、眩暈も起こりまともに歩けない。
自らに魔法を施したが、全く効果も見られず…。傍らにあっ
た愛用の杖を手に、魔術師は村の薬屋に向かった。

ようやくのことで薬屋に辿り着く。そして、自分の症状を説
明した。『今、我が身におけるさまざまな症状は常人が知り
得る定義の範疇をすでに逸脱し、尚且つ我が 研究結果
をも超えた驚愕なる事実、つまり……』
薬屋は首を傾げた……。

結局、話が通じず薬を貰えなかった魔術師はそのまま息絶
え た……。大事なことは、詰め込んだ知識を、ただ垂れ流
すことではなく、万人にわかる言葉で伝えること。それに気
づけば、ただの食当たりで彼も死ぬことはなかっただろう…。

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