ヤハの杖

ある国の大臣が、疑い深い王に逆賊の汚名を着せられ、処刑
された。一族も皆処刑されたが、大臣の幼い息子を不憫に思
った処刑人が、王に虚偽の報告をして逃がした。

美少年に成長した大臣の息子は、市場の商品を盗んでは
売りさばく泥棒生活を送った。時には捕まって袋叩きにされる
こともあったが、王への復讐を夢想すると、苦痛すら甘美だっ
た。やがて少年は貯めた金を賄賂として王宮に仕官した。

その中性的な美しさから、少年が王の目にとまり、寵愛を受
けるようになるのには時間がかからなかった。ある夜、少年は
本懐を遂げようと、父の形見である刃の仕込まれた杖を長
衣に隠して、王の寝所に向かった。

しかし、少年の額から流れ落ちた汗を不審に思った王の警護
に包囲されてしまう。杖で喉を突き、自刃した少年の目には、
高笑いする王の姿があった。その美しさと引き換えに数奇な
運命を歩んだ封印騎士団のヤハが、この美少年の杖を手に
したのは必然だったのかもしれない。