エリスの槍

高潔な人格と勇壮な武勇でその名を轟かせ、双刀の金獅子
と呼ばれた男がいた。その無双の武人が若き頃、技を磨き合
った女騎士の愛槍が、この槍である。女騎士が戦に出る時、
必ずこの槍を手にしたという。それは、双刀の金獅子が
彼女に贈った物だったからであろうか。

ある戦で女騎士は決断を迫られる。眼前に迫りくる敵軍。
背後には寒村。撤退命令を無視して彼女は最後まで留まり、
数多の敵兵を迎え撃った。しかし…女騎士は討ち死に、亡
骸はきざみ晒され、寒村は焼かれ、軍紀違反者の汚名を着
せられた。

双刀の金獅子は敵陣へと切り込み、彼女の亡骸と愛槍を
奪い返した。永遠に失った愛しき人の最期の決断と意志を、
後の世に正しく継ぐべく男は誓う。彼女のように、真に人々を
守る騎士となることを。そして、真に人々を守る騎士を育て
ることを。

今、槍はエリスの手にある。
二人の騎士の想いが込められた槍。彼女は何を思い、誰の
為にそれを振るうのだろうか。託された願いを、注がれた意志
を、エリスが受け継ぐ日が来ると、亡き騎士達は優しく見守
っているに違いない。