西の城下町の彫金屋の主人は、貴族の甲冑の装飾を手
がけるほどの腕の持ち主だったが、仕事場へは誰も出入りさ
せず、夜になると妻にも内緒で外出する変わり者だった。不
審に思った妻が後をつけていったが、村はずれの墓地までく
ると、見失ってしまった。
ある晩、妻が墓地に先回りして隠れていると、彫金屋がや
ってきて、埋葬直後の墓を掘り返し始めた。あまりのことに
妻は気が動転し、その場から逃げ出したが、彫金屋が帰
ってくる頃を見計らって、仕事場を確かめることにした。
妻が目にしたのは、豪華な甲冑や装飾品で着飾った無数
のミイラ達と、無邪気にはしゃぐ夫だった。彫金屋は墓をあ
ばいては遺体を仕事場に持ち帰り、自ら仕立てた細工の装
飾品を身につけさせて楽しんでいたのだった。
妻は嘆き絶望し、彫金屋に飛びかかり、一体のミイラが手
にした槍に、自分の体ごと倒れこんだ。後日、甲冑で着飾
った大量のミイラに囲まれるように、一本の槍で貫かれた
男女の遺体が発見された。この見事な細工の槍が、後に
ハンチの手に渡った。