霞切り

ある小さな村のほとりに小さな池があった。この池は愛し
合う少年と少女が離れる際に流した涙からできたという。
村にはその残された少年が住んでおり、もう一度少女に
会いたいと強く願いつづけていた。

ある時その池に宿る神が少年のもとに現れ、賭けを持ちか
けた。遙か北西にそびえる山にしか咲かない露草を持ち帰
ることができれば少女を連れ戻すと。すぐに旅立った少年は
幾たびの困難の末、北西の霞がかる山の中にある村をみつ
ける。その村には離れた少女がいた。

少年と少女は涙を流し再会を喜んだ。小さな川が流れる
小さな村で、離れていた時を取り戻すかのように二人は一
日中語りつづけ、結婚することを誓う。少年は願いがかなっ
たことにやすらかな笑みを浮かべる。しかしそれは深い霧の
中で見た幻影であり、少年はまもなく息絶えた。

またここにひとつかなわぬ恋がうまれたことに神は涙を流
した。この槍はその涙をこの武器に込め、俗世での二人
の幸せを願ったものだという。

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