死の舞踏

遥か昔、幾つもの小国の戦乱によって人心の荒れ果てた地
方に、一人の英雄によって興された国があった。英雄はそのま
ま皇帝となり、近隣の国を武力によって併合していく。戦乱
で疲弊しきっていた国民たちは、その王国との併合を喜んだ
という。

皇帝は時折酒宴を催し、美しい踊り子を呼んで舞を踊らせた。
公平無私な統治を行った皇帝の、数少ないささやかな贅沢だ
った。臣下の反対を押し切り、矛を交えている最中の国から
踊り子や楽団を招くこともあったという。その日も戦端に聞
いたばかりの隣国から、一人の美しい踊り子を酒宴に招いて
いた。

その踊り子の舞は恐ろしい程に妖艶で美しく、皇帝は一瞬に
して心を奪われた。直々に言葉をかけようと呼びよせた時、
剣舞に使われた小剣が皇帝の胸を貫いた。踊り子は戦相手の
隣国から送り込まれた間者だった。皇帝を失った王国は、程
なくして滅亡したという。

再び小国同士の戦乱が巻き起こり、各地で多くの死が撒き散
らされた。皇帝を刺した小剣はいずこかへと失われ、忌まわ
しき記憶と共に、その存在が語り継がれているという。

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