かつて、礼節を重んじ、武芸に秀で、貴族の中の貴族と呼ば
れた紳士がいた。紳士は容姿も端麗で、周りの女性はその姿
にいつも目を奪われていた…
ある日、紳士が夜道を歩いていると、湖のほとりで月の光に
照らされた、この世のものとは思えない美しい女性と出会った。
彼女の美しさに、しばし時を忘れる紳士であったが、彼女の
「なぜ?」という事切れそうな言葉で我に返った。次の瞬間、
彼女の美しい胸は赤い血で覆われ、紳士は自分の剣で彼
女の胸を貫いていることに気がついた。
湖に映るその紳士の顔には、笑みが浮かんでいた。そして、
紳士は確かに自分の心の声を聴いた。「コレデ、オ前以上
ニ美シイ存在ハ世ノ中ニイナクナッタ」次の日、湖のほとりで、
その紳士が自らの胸をこの剣で貫き、自害しているのが見つ
かった