雷姫

船の墓場と呼ばれている嵐が荒ぶ海峡があった。航海もまま
ならず、海峡に程近い島に住まう人々の交易も不安定であった。
何日も落雷と暴風が続き、とうとう島の物資も不足が出始める。

島の人々は話し合い海神に供物を捧げようと決めた。
一体誰が供物となるか、皆が押し付け合う中、澄んだ声が一つ。
供物に自ら名乗り上げたのは、島の統治者の娘だった。

娘は島一番の美女であったが、白く絹のような肌の大部分を
火傷の痕が覆っていた。統治者である父が止めるのも聞かず、
娘は献上品である武具を身に着け、海にその身を投げ入れた。

落雷がしばらく続き、その後海峡は安定し穏やかになった。
今でも海底には娘と共に海に飛び込んだという大きな槍が
突き刺さっており、時折雷鳴が轟くような音が聞こえるという。