昔、心の優しい天使がいた。天使は度々地上に降りては、困ってい
る人々を救済して回った。病気であれば治し、貧しければ恵み、泣
いている者を癒やした。
だが、天使は咎人や異教の信徒にまで救済の手を伸ばす。それは
許されざる行為であった。天使がそうした者を救う度に、一枚また
一枚と羽根が抜け落ちていく。
ある日、天使は小さな娘に出会う。重い病を患った彼女は苦しみな
がらただ日々を過ごしていた。だが、天使は彼女を治せない。全て
の羽根が抜け落ちてしまっていたのだ。
天使は己の不覚悟と、世界の不条理さを呪った。その憎悪は全身を
黒く染め上げ、新たなる黒い翼となって広がる。そして血の涙を流
しながら、少女の首にゆっくりと手をかけていった。