背信の刃

その姉妹は機械仕掛けの人形だった。しかし誰が見ても人間にしか見えない精巧な造りだった。
人間が成し得る技術の粋を用いて作られた二体の人形は、人間のように歩き、人間のように食べ、人間のように笑った。ただ一点、涙を流す事だけは出来なかった。そういう風には作られていなかったのだ。

姉妹は人形だったから何も感じなかった。人と同じように悲しんだりするが、本当は悲しくなんかなかった。悲しいという事が何か判らなかった。友達が事故で死んだ時も、人形を作った制作者が病で死んだ時も、何も感じなかった。姉妹にとっては、ただ居なくなったというだけの事だった。

暖かい春のある日。姉妹のところに一匹の猫が迷い込んできた。ひどく汚れた不細工な猫は、痩せて病気持ちだった。姉妹は面倒だなと思いながら世話をする。ミルクをやり、体を拭いてやり、暖めてやると、猫はすっかり元気になった。
その日から猫は姉妹の周囲を毎日ウロウロするようになった。エサが欲しくてすりより、ネズミを狩ってきては自慢し、だっこして欲しくて毎日鳴いた。姉妹は面倒だなと思っていた。

冬の風が冷たいある日。外から猫が家に戻ってきた。か細い声でヒャーと鳴くとそのまま倒れてしまいそのまま死んでしまった。妹は死体を何度も何度もゆすった。姉は死体に何度も何度も声をかけた。
だが、猫は動く事も応える事も無かった。
姉妹は胸の奥の方で何かが壊れる音が聞こえたような気がした。そして、何も感じる事は無くなっていった。