迷宮の声

その女の子には2本のおおきなツノが生えていたんだよ。耳のちょっと上のあたりから、牛みたいな立派なツノが。ツノの根元を見た事があるんだが、完全に頭の骨から生えてるみたいだったな。
もちろんそんな子はその子だけだよ。他の子は普通の子だった。ツノの子も、生まれた時は小さかったらしいよ。あ、いやツノがね。
そりゃあそうだ。あんなバカデカイツノがあったら、かあちゃんの腹から出てこれやしねえからな。

イジメられていたかと思うだろう?それが全然違うんだな。その子は村の誰よりも強かった。村であの子に勝てる男なんて一人も居やしなかったよ。
カ仕事も彼女が一番こなしていたし、村にマモノが襲ってくる時は、いつも彼女が先頭で戦ってくれていた。
何よりみんな、明るくて強い彼女の事が大好きだったんだ。

でも、ある日に襲ってきた大きなマモノは強かった。村の男達はみんなボロ雑巾のように蹴散らされて半分以上が死んだ。ツノの彼女も必死で戦ってくれたけど、やがて力尽きた。
最後にマモノは彼女の身体を持ち上げて、ツノをもぎ取ったんだ。
その時の彼女の絶叫は凄かったよ。地面が揺れるような音だった。
静かになったんで家の外に出てみたらマモノと彼女が死んでたんだ。
二人とも体中の穴という穴から血を吹き出していた。あれは、なんていうか……真っ赤な花みたいでキレイだったよ。不謹慎な話だけどさ。

それがあんたの最初の質問への答えだよ。この村の村人が全員耳が聞こえない理由。
でも知っておいて欲しい。俺達は誰も彼女の事を恨んじゃいない。
死んでしまうよりはよっぽどマシだからね。
後から皆で確認したんだが、彼女の最後の叫びは「さよなら」だった気がする。俺達は最後に聞いた音が、彼女のお別れの言葉だった事を誇りに思ってるんだ。本当にね。